4%ルールのおさらい
4%ルールは、米国のトリニティスタディと呼ばれる研究に由来する経験則で、 「株式と債券に分散したポートフォリオなら、初年度に資産の4%を取り崩し、 以後インフレに合わせて増額しても、30年間資産が尽きない可能性が高かった」というものです。 詳しい背景はFIREと4%ルールで解説しています。 本記事はその「実データ検証編」です。
検証の条件
- 初期資産:3,000万円(登場時点で運用済みとする)
- 取り崩し:毎月10万円(年120万円=初期資産の4%)の定額
- 期間:30年(開始年1990〜1995年の6通り)と25年(開始年1990〜2000年の11通り)
- リバランス:年1回、通貨:円ベース(為替変動込み・配当込みの概算)
重要な注意点として、この検証はインフレ調整なしの名目定額です。 本来の4%ルールは物価上昇に合わせて取り崩し額を増やすため、条件としてはこちらの方が緩めです (日本の1990年代〜2010年代は低インフレだったため乖離は小さめですが、結果はその分楽観寄りに出ます)。
結果①:30年取り崩しの最終資産(開始年別)
| 開始年 | 株60/債40 | 全世界株100% | GPIF型(4資産均等) |
|---|---|---|---|
| 1990年 | 21,514万円 | 7,602万円 | 3,855万円 |
| 1991年 | 28,417万円 | 14,118万円 | 5,897万円 |
| 1992年 | 28,171万円 | 15,954万円 | 5,848万円 |
| 1993年 | 24,853万円 | 15,956万円 | 6,260万円 |
| 1994年 | 25,094万円 | 15,896万円 | 5,739万円 |
| 1995年 | 29,889万円 | 19,448万円 | 6,028万円 |
この検証では、18ケース(3ポートフォリオ×6開始年)すべてで資産は30年間枯渇しませんでした。それどころか、株式を含むポートフォリオの多くは取り崩しながら資産が増えています。 1990年代半ば以降の株式(特に米国株)と円安の追い風が、年4%の取り崩しを上回るリターンを生んだためです。
ただし、道中は平坦ではなかった
最も苦しかったのは全世界株100%を1990年(日本バブル崩壊直後の世界的低迷期)に開始したケースです。 取り崩しと株安が重なり、資産は一時2,348万円(1992年)まで減少しました。 初期資産の約22%を失った状態で、 毎月の取り崩しを続ける精神的負担は相当なものだったはずです。 最終的に7,602万円まで回復したのは「結果論」であり、 道中でルールを守り続けられるかこそが4%ルール最大の難関だとわかります。
結果②:期間を25年にして開始年を広げる(全世界株100%)
| 開始年 | 25年後の資産 | 開始年 | 25年後の資産 |
|---|---|---|---|
| 1990年 | 5,534万円 | 1996年 | 8,395万円 |
| 1991年 | 8,995万円 | 1997年 | 9,127万円 |
| 1992年 | 8,160万円 | 1998年 | 4,983万円 |
| 1993年 | 11,207万円 | 1999年 | 5,140万円 |
| 1994年 | 7,615万円 | 2000年 | 2,406万円 |
| 1995年 | 9,626万円 |
11コホートすべてで枯渇はありませんでしたが、結果のばらつきは強烈です。最終資産が最も少なかったのは2000年開始 (ITバブル崩壊の直前にリタイアしたケース)の2,406万円で、 初期資産3,000万円を下回りました。同じルール・同じ配分でも、リタイアした年が数年違うだけで、25年後の資産に数倍の差がつく—— これが取り崩しフェーズ特有の「収益率順序リスク(シークエンス・リスク)」です。
結果③:取り崩し率を変えると(全世界株・1990年開始)
| 取り崩し率 | 月額 | 資産の最低点 | 30年後 |
|---|---|---|---|
| 年3% | 7.5万円 | 2,437万円 | 10,919万円 |
| 年4% | 10万円 | 2,348万円 | 7,602万円 |
| 年5% | 12.5万円 | 1,914万円 | 4,286万円 |
| 年6% | 15万円 | 915万円 | 969万円 |
最も厳しい1990年開始コホートで取り崩し率を上げていくと、資産の最低点がどんどん深くなっていきます。 取り崩し率を1%変えることは、月あたりでは数万円の違いですが、最悪期の資産残高への影響は大きく、 「率を下げる・悪い年は取り崩しを絞る」といった柔軟性が安全余裕になることが読み取れます。
トリニティスタディとこの検証の違い
- インフレ調整:本家は取り崩し額を毎年物価上昇分だけ増額。本検証は定額(緩い条件)
- 通貨とデータ:本家は米ドル・米国市場の長期データ。本検証は円建て概算データの1990〜2024年で、日本バブル崩壊は含む一方、米国大恐慌のような壊滅期は含まない
- 検証本数:本家は多数の開始年を統計処理して「成功率」を出す。本検証は17コホートの全結果をそのまま提示
つまりこの検証から言えるのは「円建てでも過去35年の範囲では4%定額取り崩しは生き残った」であり、 「将来も4%なら安全」ではありません。将来のばらつきを見るには、過去の1本道ではなくモンテカルロ法で数百〜数千通りのシナリオを生成し、資産枯渇確率を確認するのが有効です。
自分のリタイア条件で試してみる
当サイトのシミュレーターは取り崩しモードに対応しており、モンテカルロでは枯渇確率も計算されます。 まずは本記事と同じ条件を読み込んで、金額・配分・期間を自分の計画に合わせて動かしてみてください。